Viburnum tinus × davidii と呼ばれている常緑のビバーナムがある。
「これは本当に V. tinus × davidii なのか?」
とここ数年、何度か質問を受けている。
正体に議論が生じているところだが
海外では日本から購入したというこの植物に
Viburnum tinus x davidii 'Moonlit Lace' Ⓡ
という品種名をつけて販売されている。
こうなると、
調べたことをまとめてweb上に残した方がいいかな、と思い立った。
ちなみに、
日本に導入された当初、この植物に品種名は無かった。
この植物を最初に受け取った本人に聞いたところ、
「ルパン」という品種名を考えていたという。
しかもその意味もちゃんと考えられていた。
この植物の正体について、
本当は、作出者に聞くのが一番良いのだが、
何処の誰かなのかがわからない。
とにかく、
ご協力いただいた専門家の見解と、
長年栽培し観察して知った特性から
調べられる範囲で調べてみた。
数冊の本とウェブサイト、
数人の植物の専門家の見解をここにまとめておくことにする。
来歴
今から十数年前、正確には憶えていないが
フランスの生産者から「V. tinus × davidii 」だとして日本に渡った。
受け取った本人は、その生産者の名前を憶えていないらしい。
その後、当圃場に導入された。
特性
耐寒性が強く、まとまりが良い。
花は春から夏にかけて咲く。
葉には光沢があって、葉の主脈は3本、葉の縁にヨレがみられるものもある。
秋の紅葉は葡萄茶と赤銅色を感じる渋く深い色あい。
若い枝も新芽も赤い。
実はパラパラとついた年もあった、というくらいだ。
周辺の環境にもよると思うが、
毛虫やミノムシがこの葉を好んで驚くほど次から次へとやってくる。
2010年、
荻巣樹徳氏にこの植物の正体について見解を伺う。
「Viburnum × globosum 'Jermyn's Globe' に近いのではないか?」と回答を頂く。
Viburnum × globosum とは
V. calvum × davidii のこと。
発生したのは1964年 Hillier Nurseryにて。
どのように交雑したかの詳細は、
2021版 The Hillier Manual of Trees & Shrubs をご参照ください。
その後
「V. × globosumではない」という意見が耳に届いた。
違うというなら何なんだ?
そこで、
フランスでナーセリーを経営している植物に精通した友人に見解を伺う。
「開花期が合わないから、V. tinus × V. davidii の可能性は低いのでは?」との回答。
確かに。
花粉を保存しておくという方法もあるが、
花を見るとなかなか難しそうだ。
そして、
その友人から、ビブルナムの専門家 Maurice Laurent 氏に
写真を転送してもらい見解を伺った。
回答は、
「Viburnum calvum x davidii だと思う」と。
ということは、
荻巣樹徳氏の見解と同じだ。
次に
calvum と davidii をそれぞれ調べることにした。
詳細は
The Hillier Manual of Tree & Shrubs
Michael A. Dirr VIBURNUMS
をご参考ください。
calvum には tinus に似ているという記述があり、
葉には calvum と davidii 両方の特徴があらわれている。
最後に、私の見解は
'Jermyn's Globe' とは別の
Viburnum calvum x davidii すなわち V. x globosum ではないかと思う。
この業界のプロの方々には言うまでもないことだが、
AとBを交配し実生した場合、すべてが同じABにはならない。
さて、プロの皆様、どのように考えますか?
ぜひ、ご意見を賜りたい。
また、このブログが作出者の方の目に留まったなら、ご連絡をいただけると嬉しいです。
調査にご協力いただいた3名の方々には心から御礼申し上げます。
貴重なお時間を頂きありがとうございました。
参考にした資料は
The Hillier Manual of Tree & Shrubs
Michael A. Dirr VIBURNUMS
Flora of China
コメントをお書きください